運送業が人手不足の理由と原因とは?国や企業の対策方法について
運送会社の長時間労働に関するニュースを目にしたことのある方は多いと思います。しかし、そもそも「なぜそこまで長時間労働が蔓延するのか」について考えを巡らせたことはあるでしょうか?
原因はいくつかあるのですが、中でも大きなウエイトを占めるものとして、業界全体での慢性的な人手不足が挙げられます。
ドライバーの数が足りていないがゆえに、一人あたりにかかる負担が増しているのです。この記事では、運送業界における人材確保の難しさやその原因、業界が抱える問題点などを詳しく紹介していきます。
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運送業は慢性的な人手不足の現実
日本の総人口は2005年を境に減少フェーズに突入しています。そのうち生産年齢人口の割合ともなると、かねてから叫ばれている少子高齢化の影響もあって、年々数字が低くなり続けている状況です。
若者の数そのものが縮小しているわけですから、当然、これまでと同じやり方で人員を確保することは難しくなってきます。運送業においてもその傾向は見られ、就業者数はマイナス方向に推移。
この業界では就業者数324万人を下回ると人手不足感が生じてくると言われているのですが、平成16年の時点で323万人、平成17年で317万人と、徐々に減ってきています。
ドライバーのなり手がいるかいないかにかかわらず、既存のドライバーは年々一つずつ歳を重ねていきますから、高齢化も進行します。
50歳以上のドライバーの割合は平成5年の時点では全体の28.4%でしたが、平成16年には39.3%にまで増加。反対に29歳以下の割合は22.5%から13.9%に落ちています。
また、平均年齢は大型トラック運転手で47.5歳、中型・小型トラック運転手で45.4歳となっています。全業種平均が42.2歳ですから、やはりいずれも若者の雇用促進が喫緊の課題であると分かりますね。
このように、運輸業界は少子高齢化の影響を強く被っている産業なのです。運送業は労働集約型の産業ですから、人材を確保できないのは致命的です。
したがって今後は、若者に就職先として選ばれるよう待遇の改善に努めるほか、これまで充分に活用されてこなかった女性や高齢者も積極的に労働力として組み込んでいくことが求められると考えられます。
運送業が人手不足に陥った原因
ところで、運送業はなぜそこまで人手不足に陥っているのでしょうか。いくら日本全体で少子高齢化が進行しているとはいえ、それだけが理由なら条件は全産業とも同じはずです。
運送業界が他の業種と比べても人手不足感の強い状況となっている以上、そこには業界特有の理由があると考えるほうが自然でしょう。
運送業に対するマイナスイメージ
一つめの理由として、運送業そのものにマイナスイメージがついていることが挙げられます。
運送業は3K職場であるとしばしば囁かれます。3Kというのは「危険」「きつい」「帰れない」の略で、要するにブラック企業が多いという印象が定着してしまっているのです。
もちろん全部が全部そういう会社ばかりというわけではありませんが、あながち間違った印象とも言い切れません。
自動車を走らせる以上は「危険」と無縁ではいられませんし、近年の通販業界の躍進によって宅配需要が急増したことで「きつい」仕事量にもなっています。
さらに、荷待ちや再配達の増加によって積載効率が悪化しているため、仕事が長引いてなかなか「帰れない」ドライバーも発生しています。
現代の若者は労働環境に対して敏感です。こうしたイメージを払拭しないことには、若い世代の就労数を増やすことは難しいでしょう。
労力に賃金が見合わない
二つめの理由として、長時間労働のわりに賃金が安いという指摘もあります。たとえば宅配最大手のヤマト運輸は、過去に長時間労働問題で是正勧告を受けています。
もちろん超勤手当の制度はあるので、定時を超えて働いたぶんに関しては残業代が出るはずだったのですが、そのときのヤマト運輸では勤務時間の改ざんや残業代の未払いが横行していました。
このようなケースは他の運送会社でも見られ、やはりその都度報じられて問題となっています。
運送業の人手不足を解消するための対応策
現代社会が円滑に回るためには物流業者の存在が欠かせません。また、旅行や出張などの際は交通機関に頼ることになりますから、旅客輸送も非常に重要な産業であると言えます。
運送業の人手不足が慢性化することは経済力の低下すら引き起こすのです。現状を改善するための施策はあるのでしょうか。業界がどのような対策に取り組んでいるのか見ていきましょう。
働きやすい環境を整える
就業者を増やすためには、何と言ってもドライバーの働きやすい環境を整えることが必須です。たとえば国は2018年12月、改正貨物自動車運送事業法を成立させました。
これまでにもルール違反を犯した運送会社に対する行政処分は行われてきましたが、この改正によって処分逃れを予防することも可能になったのです。
また、運送事業を許可する基準を明確化したり、運送会社が参考とすべき標準運賃を設定したりと、労働環境を改善させる圧力を強めています。
一方で、国土交通省は「トラガール促進プロジェクト」を主導。女性ドライバーの活躍を促進するキャンペーンを進めています。
もちろん運送会社の企業努力を前提としたうえでの話ではありますが、行政としても運輸業界の人手不足に対しては危機感を持って改善に動いていることがわかります。
待遇改善の取り組み
先に述べたように、運輸業界では忙しさのわりに賃金が安いという不満が数多くあがっていました。
こうした不満を解消するため、国土交通省がドライバーの所得向上や事業者の人員確保を後押しする方向で動きを進めています。
その一例として、2017年、運送会社が荷主と契約を結ぶ際のルールを改めるよう調整したということがありました。
国交省がひな形として用意している標準運送約款を改正し、待機時間の費用や積み卸し料金を書面化したのです。
基本的に運送契約は荷主優位であるため、基本運賃以外の料金を受け取れていない事業者が大半でした。しかしこの改正によって、運送会社がサービスの対価を適正に求められるようになったのです。
そして運送会社に余裕ができれば、その利益は昇給や福利厚生の充実といった形でドライバーにも還元されていきます。この例からもわかるように、ドライバーの利益に繋がる取り組みが各所で進められているのです。
仕事の量を抑える
通販の発達によって物量が増大していることも、運送会社のリソースが圧迫されている要因の一つです。しかし、運輸業界も無策ではありません。Amazonの宅配業務はかつて佐川急便が担当していました。
佐川急便が撤退してからはヤマト運輸が業務を引き受けていたのですが、荷物量の増加によってドライバーにしわ寄せが行き、最終的にヤマト運輸はAmazonと料金交渉を行った末、当日配送から撤退しています。
このことをきっかけにヤマト運輸は通常の集荷料金も上げており、佐川急便など他の会社も値上げに動きました。
勤めている会社で荷物や郵便物を発送したことのある方であれば、もしかしたら記憶に新しいところかもしれません。
料金が高くなれば自然と荷物の量も減ります。このように、仕事量を抑えるという方向での対策も図られているのです。
求人広告の見直し
ハローワークやインターネットの転職サイトなどを覗いてみると、運送会社の求人が数多く見つかりますよね。
今でこそ求職している人とのマッチングもできていますが、以前はそうしたところに求人広告を出しても応募者がいないということが珍しくありませんでした。
原因は、他業種と比べて待遇面が悪かったためです。そうした労働者や世間の声を受けて、運送会社も募集条件の見直しを行うようになりました。
待遇や労働条件を改善し、ドライバーが安心して働ける環境を用意する会社が多くなってきています。
まとめ
皆さん、いかがでしたか?運送業が慢性的な人手不足の状態にあることは事実です。
しかし、現在では行政も業界も危機的状況を認識しており、官民双方から改善が積極的に進められているのです。
求人募集の内容をよく確認し、相性のよい会社を探せば、自分に合った職場を見つけることは不可能ではありません。